Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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明野・鳥2



1.研究課題(ステートメントと視野)
在宅福祉サービス提供事業者職員における「普遍化された優生主義仮説」の妥当性検証の試み――「会話的文章完成法(Conversational Sentence Completion Test)」を活用した意識調査結果の言表分析を通じて
2.研究の背景と目的
「遺伝子レベルの障害」がもたらす諸問題の克服は、医療・保健領域と統合されつつある社会福祉の政策領域において主要な課題となりつつある。本研究が焦点を当てるのは、今後、予防を目的とした予測医療の潮流が、医療・保健・福祉政策とその実践現場をどの程度、そしてどのように方向づけていく可能性があるのかというテーマである。生活習慣病が慢性疾患化する高齢社会に対応して、近年の社会福祉政策は、要介護状態の予防を政策目標にするようになってきた。こうした現状において、「個人、カップルの自由な選択(自己決定;以下同様)による遺伝性疾患の診断、治療、予防」という、WHO主導でグローバル化したともいえる「新優生主義(Neo-eugenics)」理念の実践(cf.根村 2000.etc,)が、要介護者を始めとするリスクグループの選別につながるのではないかという問題が浮上してくる。
3.研究の重要性
本研究が課題とする「普遍化された優生主義仮説」(後述)の妥当性検証の試みは、個別的社会福祉援助実践(ミクロレベル)と社会福祉政策実践(マクロレベル:Policy Practice)の関係性の考察というテーマに関わっている。本研究によって、上記ミクロレベルとマクロレベルを媒介する「普遍化された優生主義仮説」という仮説的レベルを今後分析していくための方法論が構築されることになる。なお、本研究が主題的に分析するのは、「ハイテクノロジーによるQOL向上」としてイメージされ得る事例である。ここでのハイテクノロジーは、特に遺伝性疾患の診断、治療、予防に関わるものとする。従って、本研究の分析対象は、遺伝性疾患の診断、治療、予防に関わるハイテクノロジーによるQOL向上としてイメージされ得る事例となる。さらに、実際に使用される質問票においては、ここでの「ハイテクノロジー」は、より広く「遺伝子改変」という技術的介入の総体として提示される。医療保健福祉の政策レベルにおいては、「個々人のQOLは一元的な尺度により階層序列化可能である」という信念(後述)が政策決定上のパラダイムとなっている。この意味で、こうしたパラダイムを、上述したミクロレベルとマクロレベル(政策パラダイムとその政策的実践)の関係性という観点から冷静に考察していく必要があると考える。
4.研究目標
本研究は、在宅福祉サービス提供事業者職員に対するアンケート形式の意識調査結果の言表分析によって、「普遍化された優生主義仮説」の妥当性を検証することを研究目標とする。
5.検証する仮説、または調査したい質問
まず、仮説の基本成分としての「普遍化された優生主義」を、「この私の(または誰かの)生存(+)が、他の誰かの生存(-)よりも一層生きるに値する」という言説形態によって明示化され得る信念とする。本研究においては、この信念は、通常は<我々自身の無意識>という無意識的レベルにとどまっていると想定している。本研究で行われる言表分析は、上記「普遍化された優生主義」が充当された<我々自身の無意識>という想定されたレベルを、分析の過程を通じて言語化(対象化)されたものとして抽出する試みである。「この私の(または誰かの)生存(+)が、他の誰かの生存(-)よりも一層生きるに値する」という先の信念は、正/負(+/-)の価値軸としての一元的な価値尺度を前提している。よって、この信念は、「個々人のQOLは、正/負(+/-)の価値軸としての一元的な価値尺度により階層序列化可能である」という「信念2」に置き換え可能である。さらに、この「信念2」は、「正/負(+/-)の価値軸としての一元的な価値尺度の基盤となるテクノロジーの介入による個々人のQOL向上は正当化され得る」という「信念3」に置き換え可能である。<我々自身の無意識>としての「普遍化された優生主義」は、本研究が試みる「会話的文章完成法(Conversational Sentence Completion Test)」を活用したアンケート調査結果の言表分析を通じて言語化(対象化)されたものとして抽出され得ると仮定する。本研究では、「遺伝子改変」という技術的介入によるQOL向上としてイメージされ得る事例が組み込まれる。以上から、本研究が妥当性を検証する「普遍化された優生主義仮説」は、次のようなものになる。本研究が妥当性を検証する「普遍化された優生主義仮説」:在宅福祉サービス提供事業者職員が、「遺伝子改変という技術的介入による個々人のQOL向上は正当化され得る」という言説形態において明示化され得る無意識的信念を持つ。
6.既存の調査・研究結果との関連
厚生労働省専門委員会の議論において、先端医療現場におけるケア・カウンセリングを効果的に行う上での社会的・制度的基盤がわが国においては不十分であることが指摘されている。他方、社会福祉プロパーの研究領域において、現状における先端医療の急速な進展を主題化した研究、とりわけ上記テーマを主題化した先行研究は筆者の見る限りでは存在せず、この点で研究の大きな遅れが生じている。また、広く「(新)優生主義(優生学・優生思想)」をテーマ化する社会学的研究であっても、それら研究のほとんどは、(1)社会福祉領域を事例にした研究ではなく先端医療の領域に限定したものか、または科学史・科学思想史等の領域における研究である、(2)先端医療現場の個々の臨床的事象またはそれに関連した社会現象の質的解釈に限定された研究が主であり、上記テーマに直接照準したデータ分析を組み込んだ調査研究ではない、という共通点を持っている。既存の研究においては、本研究のように社会福祉の実践現場を事例とし、上記テーマに直接照準した調査結果の言表分析を行う研究は見られない。
7.研究課題の概念、理論の枠組み
本研究は、「投影法」の一類型である「文章完成法」を応用した「会話的文章完成法」を活用することにより、被験者の無意識的な「信念」を言語化し分析可能なデータにするという方法論を取る。言語化されたデータは、「言表分析」の方法論によって分析される。フーコーは、通常は無意識なものにとどまる個人の態度や構え自体が、さまざまな社会的・制度的・歴史的コンテクストを構成する「言説実践」を通じて構築されていることに注目した。先に<我々自身の無意識>と呼んだレベルは、こうした「言説実践」を通じて構成される特定の社会的・制度的・歴史的コンテクストを一貫して媒介するレベルとして想定される。その意味で、<我々自身の無意識>は、一貫した社会的・制度的・歴史的コンテクストの生成原理であるといえる。フーコーは、『知の考古学』(1969)において、個人が社会的に構築されていく過程で、「発話行為」や「書く行為」として実践・反復される一群の言説を「言表(enonce)」として主題化した。本研究が採用するのは、この意味での「言表分析」であり、被験者による会話的文章の完成という「言説実践」を通じて生成される「言表群」の分析を目標としている。すなわち、この場合、被験者の「言説実践」によって完成される会話文が分析対象としての「言表群」となる。これら言表群の生成過程を媒介する<文脈=生成原理>を遡行的に追跡する「言表分析」により、<我々自身の無意識>が一貫して媒介するミクロレベルとマクロレベルの関係性の考察が可能になる。「普遍化された優生主義仮説」との関連で本研究が注目するのは、遺伝性疾患の診断、治療、予防を可能にするテクノロジー的基盤が成立して以降における、社会福祉の法制度と結びつきながら急速に増殖し続けている「言説実践」である。この「言説実践」を一貫して媒介する文脈は、グローバルレベルの極めて広範な射程を持つと想定できる。日本におけるその法制度の一例として、世界的に遺伝子診断等のテクノロジーが急速に進展した90年代末(1997)に成立し2000年に施行された「介護保険制度」を挙げることができる。従って、本研究では、介護保険の現場に従事する在宅福祉サービス提供事業者職員を調査対象者とする。
8.研究対象、調査・研究のデザイン
 研究対象者は、「会話的文章完成法」を活用したアンケート調査の対象者、言表分析の対象者ともに同一とする。具体的には、民間株式会社である(指定居宅サービス・指定居宅介護支援)事業者に所属する常勤・非常勤職員13名(ケアマネジャー9名、その他4名)を調査対象者とする。上記対象者に対して、アンケート調査を実施し、会話文の言説分析を行う。
9.データの分析方法(言表分析の基礎的な方法論)
今後、さらに精緻化して執筆完成予定

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